ATMサービス利用者急増、追い風NTT、ネット拡大――音声系が技術の岐路に。
 
日経産業新聞 10/26 8頁 1582字】

 日本電信電話(NTT)のATM(非同期転送モード)関連サービスが急速に利用者を増やしている。特に、昨春から開始したATM専用線サービスは毎月100件超の契約を獲得する勢い。 インターネットに代表されるデータ通信需要の拡大が背景にあり、同社では99年度からATMネットワークの強化拡充へ向け投資を開始する計画。 ただ、世界的には「ATMの次」を見据えた構想を立てる新興通信会社も登場しており、技術的潮流を正確に読みとるのは容易ではない。

 NTTは97年四月からATM専用線サービス「ATMメガリンク」を開始した。 最大伝送速度は毎秒135メガビットで、利用者は1メガビット単位で自由に速度を選択できる。 中継区間で故障が起きた時に回線を自動的に切り替えるかどうかでサービスを三分類し、利用者ニーズにきめ細かくこたえている。

 東京―大阪間で毎秒6メガビットの回線を契約すると、料金は月間190万7千円(自動切り替えのないシングルクラス)。 従来の高速デジタル専用線に比べ、ビット当たり単価は大幅に安くなる。 このため、インターネット接続業者、メーカー、銀行、証券、旅行業といった大量のデータ通信需要が見込まれる企業の利用が相次いでいる。 昨年まで毎月数十件にとどまっていた新規契約数も今年八月以降は100件を超すペースに加速している。

 日本テレコム、DDIなど新電電各社もATMサービス拡充に動いており、「98年度はATM元年といった雰囲気」(石川雄三DDI営業企画部長)だ。

 追い風を受け、NTTは99年度からATMネットワークの強化拡充を開始する。 現在「ATMメガリンク」は、94年九月から2年半にわたり実施したマルチメディア共同利用実験で使用した光ファイバー網を転用しているが「本格的なATM交換機はまだ導入しておらず、このままでは柔軟なサービスを提供するには限界がある」(成宮憲一NTT技術部技術評価担当部長)との判断からだ。

 金額は未定だが、ATM交換機などを順次増強する計画。 また、フレームリレー、オープン・コンピューター・ネットワーク(OCN)といった既存のデータ通信サービスのインフラを、このATM網に統合していくことも検討中だ。 ネットワークが統合されれば回線の効率活用でユーザー料金の低下につながる可能性もある。

 ただ、問題は電話、ISDN(総合デジタル通信網)など音声系サービスのネットワークをどうするかという点。 現状ではこうしたサービスはすべてSTM(同期転送モード)ネットワーク上で展開している。 減少傾向にあるとはいえNTTは6千万件弱の一般加入電話契約を持つ。 「過去からの蓄積を考えれば、音声系のサービスを今すぐATM網に統合するメリットはない」(成宮担当部長)わけで、当面はSTM網とATM網が併存することになる。

 一方、米国などでは新興通信会社を中心に、音声とデータのネットワークをすべて統合する動きが出始めた。 例えば米レベル3コミュニケーションズはATMを暫定的に採用するが、いずれはSONET(同期光ネットワーク)などの伝送レイヤーに直接インターネット用通信方式「IP(インターネット・プロトコル)」を乗せる構えだ。

 レベル3の構想をつきつめれば、電話用のSTM交換機もATM交換機もない、ルーターを主体としたネットワークで音声やデータ通信サービスを提供することになる。 また、米スプリントはレベル3とNTTの中間形態を模索、「ION」の名称で電話とデータをすべてATM網に統合するプロジェクトを進めている。

 六千万の電話契約を持つNTT、電話サービスの蓄積はあるが長距離主体のスプリント、新興のレベル3。 過去の資産蓄積の大小によって、技術潮流に対する反応も異なる。 過去が未来への土台となるのか負担となるのか、通信業界は今、「技術の岐路」に立たされている。(高橋一文)

 
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